[クリエーターから見た時計]
独立時計師とは、ご存じの方も多いと思いますが、所謂時計の個人作家さんで、どこの大手ブランドにも属さずに一人もしくは、数人で時計を作る人たちのことを云い、ヨーロッパでは独立時計師協会[AHCI (Académie Horlogère Des Créateurs Indépendants)]と呼ばれる国際的な組織で運営されている団体もあり、今まで(2013年)日本人は所属していないとされていましたが、近年この団体に加盟した日本人時計師の方がおられます。
その方々が菊野昌宏さんと浅岡肇さんです。
勿論菊野さんの時計にも日本の心を感じるモノ作りからなる時計を制作されていますが、今回の浅岡さんの作品には、今までの時計師の目線とは違ったモノ作りが垣間見えたからです。
浅岡さんと出会ったのは2012年頃だったと記憶していますが、作品を見せて頂いたのは2013年のバーゼルワールドの会場ででした。
その際に見せて頂いたトゥールビヨンからは、明らかに時計師からの視点で作られた時計ではなく、クリエーターからの視点で作られた時計であることに驚きを受けました。
経歴は東京芸術大学を卒業された現役のデザイナーであるということで、専門的な教育を受けられた訳でもなく、独学で時計の構造や素材の特性等を習得され、それぞれの部品に最適な素材や構造を思慮され創り出された、浅岡さんが作るクリエーターとしての仕上げや輪列の配置や完成度の高さは、明らかに時計畑出の時計師とは一線を画した美しさを持っています。
また何より目を惹くのは、時計の心臓部とも云える直径15mmにも及ぶ大きなテンプ。
安定した時を刻む上で重要な部分ですが、大きなテンプこそが浅岡さんが元々のアイデアとして描かれていた“懐中時計を適したサイズの腕時計に…”というところからの発想だったそうでした。
勿論、現在でも懐中時計に使われている汎用性の高いムーブメントを搭載した時計は、たくさん出回っていますが、浅岡さんが理想とするパーツの節度や品質を考えると、一から設計をやり直し、それに使うパーツの殆どを彼は自身で作って行ったそうです。
浅岡さんのモノ作りは、一般の時計師たちが行うプロセスとは異なり、一つ一つのパーツの精度を追求して行くとどうしても現在の制作工具や旋盤機のみでは求める品質には及ばない為、しいては穴の開けるドリルの精度や回転方向まで様々な改良を加えてバリの出ない切削を行うなど、とことんまで探求して制作して行く為、気の遠くなる時間と手間を惜しみなく費やされるそうです。
[TSUNAMI16 Piece Unique]
Piece Unique…つまり一点ものを意味する言葉は、そのためだけに制作された事を表しており、今回当店に入荷したこのモデルは、2015年のバーゼルワールドに出品するためだけに制作された個体でした。
そのため、浅岡氏の[Tsunami16]を掲載している他のサイトでもこのモデルに関しては、[参考出品]としてしか表示されておりません。
この特別なモデルを手にする事が出来る方もおひとりと限られています。